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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)503号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもつて調査するに、原審は、上告人は、訴外本間未松から同人所有の本件宅地を含む山形市歩町一七番宅地上の建物二棟の所有権を代物弁済により取得し、昭和三七年一月三〇日その所有権移転登記手続を経由するとともに、同日同人から右一七番宅地を建物所有の目的で賃借したが、その後同年七月一三日未松は死亡し、訴外本間キヨノ外二名が、相続により右一七番宅地の所有権を取得して上告人に対する賃貸人の地位を承継した。しかるところ、被上告人は、未松を相手方として、被上告人において本件宅地をその地上建物とともに同人から賃借したこと、および同人は右賃借建物を故意に取りこわしたのであるから、もとどおりの建物を建てて賃貸すべき義務があることなどを理由に山形簡易裁判所に仮処分命令を申請し、同裁判所は、昭和三七年二月一二日付をもつて、「本件宅地に対する未松の占有を解き、これを山形地方裁判所執行吏の保管に付する。未松は、本件宅地を第三者に賃貸する等占有を移転し、またはこれが地上に現存する被上告人所有の酸素熔接機、自動鋸盤等熔接作業に使用すべき一切の機械器具並びに付属工具をき滅、損壊、移動、搬出する等現状を変更する一切の行為をしてはならない。」旨の仮処分決定をし、同決定は即日執行された旨の事実を確定したうえ、本件宅地所有者であるキヨノ外二名が右仮処分決定の拘束を受けることは疑う余地がなく、上告人が、賃借権者として右仮処分につき右のような立場にあるキヨノ外二名の本件宅地所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する本件においても、右仮処分決定の拘束力に服さざるをえないことも明らかであり、従つて、仮処分決定に反する上告人の本訴請求は理由がないとしてこれを排斥している。

しかしながら、仮処分は、権利または法律関係に関する争いにつき本案判決による終局的解決がなされるまでの暫定的仮定的処分にすぎないから、右未松に対し本件仮処分がなされたからといつて、そのため同人ないし右キヨノ外二名が、本件仮処分の被保全権利を否定して自ら進んで訴を提起し、本件宅地の所有権に基づき、被上告人に対しその明渡を求めることができなくなるものではなく、このことは、上告人がキヨノ外二名に対する本件賃借権を保全するため同人らに代位し、同人らの本件宅地所有権に基づきその明渡を求める本訴請求についても変りがないというべきである。そうすると、本件仮処分の拘束力のゆえに、上告人の本訴請求は理由がないとしてこれを排斥した原判決には、判決に影響をおよぼすこと明らかな法解釈の誤りがあり、論旨に対し判断を加えるまでもなく、原判決はこの点において破棄を免がれない。

よつて、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきものとし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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